中村キース・ヘリング美術館(山梨県北杜市)では、2025年6月7日(土)から2026年5月17日(日)まで、キース・ヘリングの没後35年を記念し、彫刻作品に焦点を当てる展覧会「Keith Haring: Arching Lines 人をつなぐアーチ」を開催いたします。
当館が新たに収蔵した全長5メートル超の彫刻《無題(アーチ状の黄色いフィギュア)》を中心に、当館所蔵の全13点の彫刻作品を一挙公開する本展は、「線のアート」で知られるヘリングがなぜ彫刻という表現手法に取り組んだのか、その経緯を辿る当館初の試みです。
1980年代のアメリカ美術を代表する存在であるヘリングは、人や犬といったモチーフを輪郭線のみで描く独自のスタイルで知られています。1979年、地元ペンシルベニア州からニューヨークに移住した直後から地下鉄構内の広告板にチョークで描く「サブウェイ・ドローイング」を開始。親しみやすさと強烈なインパクトを併せ持つ描線により、一躍国際的な注目を集めるようになりました。
ヘリングは生涯を通じて「誰にでも届く視覚言語」の可能性を追求しました。彫刻はその到達点のひとつであり、線が自立し、永続的な存在感を持つ表現となりました。彼は1988年のインタビューで次のように語っています。
「絵画というものは、ある程度まで、依然として素材の幻想です。でも、イメージを切り出した瞬間、それは現実のものになります。もし崩落すれば、人を殺すかもしれません。そうした力は絵画にはありません。(中略)それは恒久的で、実在する感覚を持ち続けます。私が生きているよりも、はるかに長く存在し続けることでしょう。」
ヘリングは作品の永続性を「不死性(immortality)」と呼び、制作行為そのものを、自らの存在を未来へ残す手段として捉えていました。
1985年より取り組み始めた彫刻作品は、絵画表現とは異なる公共性と永続性に対する信念に基づいて制作されました。鋼鉄やアルミニウムを用いて立体化された線は、都市景観や自然の風景に溶け込みながら、社会とアート、また人と人とをつなぐ立体表現となりました。
本展では、展示室内および屋外空間に彫刻作品を展示し、時間帯や天候によって変化する光の中で、生命力あふれる造形表現を体感していただけます。
なお、本展の会期中には同時開催として、中村キース・ヘリング美術館を設計した建築家・北川原温の美術館における初個展「北川原温 時間と空間の星座」を同時開催いたします。本展では北川原氏の創作のソースを「星」、建築を「星座」に見立て、その方法論や生成の過程を探ります。
展覧会の詳細はこちら:
https://www.nakamura-haring.com/exhibition/13607/
【北川原 温(きたがわら・あつし)プロフィール】
建築家。1951年長野県千曲市生まれ。
東京藝術大学で建築を学び、東京・渋谷の映画館《ライズ》で世界の注目を集めたのち公・民問わず国際的に多くの建築設計に携わる。東京藝術大学名誉教授、MET(旧北川原温建築都市研究所)フェロー。